はしかと呼ばれる麻疹に、全国的な流行が懸念
一般的に「はしか」と呼ばれる麻疹について、全国的な流行が心配され、2回の接種が必要なワクチンを受けていない場合は、感染の恐れがあるとして注意を呼び掛けています。麻疹、いわゆる「はしか」は、感染力が非常に強く、インフルエンザや新型コロナを超え、感染者と同じ空間にいただけで、感染のリスクが非常に高まるとも言われています。
麻疹(はしか)にかかると約30%が肺炎や中耳炎といった合併症を起こし、死に至ることもありますが、その多くは二次感染、つまり麻疹ウイルスそのものではなく別の病原体によるものです。麻疹が他の感染症にもかかりやすくなる、すなわち免疫抑制を起こすことは以前から知られていました。文献をひもとくと、今から100年以上も前に、結核への免疫を示すツベルクリン反応が麻疹によって消失することが報告されています。
麻疹によって免疫が抑制される現象は知られていたものの、そのメカニズムが明らかになったのはわりと最近です。ウイルスは複製するために細胞に侵入する必要があります。侵入時のとっかかりに細胞表面の分子にウイルスが結合するのですが、その分子のことをウイルス受容体と呼びます。麻疹ウイルスの主要な受容体がわかったのは2000年、いまからほんの二十数年前のことです(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv1958/50/2/50_2_289/_pdf)。ちなみに私の母校である九州大学からの報告です。その当時、私は大学院生として基礎研究をしていました。私もこのような素晴らしい研究をしてみたいと思ったものです。
その受容体は、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)と呼ばれる分子で、その名前の通りリンパ組織に発現しています。全身の免疫を担うリンパ組織にウイルスが感染したり、あるいは活性化分子がブロックされたりすることで免疫抑制が起きます。麻疹ウイルスを強盗に、免疫細胞を警備員に例えるならば、まず強盗が警備員を制圧することでより自由に行動できるようになるようなものです。警備員の力が低下するのでほかの泥棒(病原菌)に対する防御も弱くなってしまいます。
日本のはしかの感染状況をめぐっては、2008年に1万人を超える患者が出ましたが、ワクチンの定期接種を2回に増やしたことなどから2015年は減少傾向であり、世界保健機関から、国内に土着ウイルスがいない「排除状態」と認定されています。
また、はしかを予防するには、ワクチン接種が最も有効です。はしか患者に接触した場合でも、72時間以内にワクチンの接種をすることで、はしかの発症を予防できる可能性があります。